7 月 9 日 晴れ

飴色の液体

今日は土曜日だけど学校がありました。
3時間授業で昼休みは無いので、弁当は部室で食べる事にしました。
鍵を借りて、独り教室の片隅に腰を下ろしました。
電気は点けず、薄暗い中で平らげました。
暫く本を読んでいましたが、誰も来ません。


ふと、鍵を借りる時の事を思い出しました。
あの時先生は「部活動か?」と聞き、
僕は其れに「はい、そうです。」と答えた筈です、
若しかして、今日は部活動は休みだったのでしょうか?
僕は其れに気付かず来てしまった?
少し恥ずかしいです。


とりあえず、何か行ってから帰ろうと思います。
扉を開けて中を眺めます。
酢酸鉛、過酸化マンガンカリウム、塩化鉄・・・
急に後ろに人の気配がしました。漸く誰か来てくれたのでしょうか。
期待して後ろを振り向くと、其処に居たのは
先生でした。
僕と目が遭うと直ぐに何事も無かったかの様に帰っていきました。
彼の目には、僕がどの様に移って見えたのでしょうか?
薄暗い部屋で独り薬品を弄る僕…
胸の辺りがざわざわします。




先輩の使っていた試験管に、蟻が集まっていました。
紅くて小さい蟻、ホルム(form)と呼ばれる方の蟻です。
艶々した体が透明な管を上り、青い液体の中へ落ちます。
何匹も何匹も、吸い込まれる様に其の身を浸します。
誘われて、惑わされて行く先は、死だけだというのに。


其の内の一匹が僕の指先を上ってきました、
何とも親しげな印象を受けます。
僕は其れを摘み上げ、青い液体の中へ落としました。