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タリウム殺害未遂、薬品30種押収…なぜ容易に入手?

 静岡県伊豆の国市、県立高校1年の女子生徒(16)が、母親(47)をタリウムで殺害しようとしたとされる事件で、殺人未遂容疑で逮捕された女子生徒の部屋から、劇物を含む約30種類の薬品が押収された。


 グリコ森永事件、毒物カレー事件などを受け、毒劇物販売の規制は強化されてきたが、なぜ女子生徒は容易に劇物を入手できたのか――。


 静岡県警の捜索で、女子生徒の部屋からタリウムが押収され、取り調べに対し、女子生徒は近所の薬局で購入したことを認めている。


 だが、毒物及び劇物取締法は、18歳未満への販売を禁止し、購入時には氏名、住所、職業や購入数量などを記入した書類の提出を求めている。


 厚生労働省は身分や使用目的を確認するよう指導しているが、女子生徒にタリウムなどを販売した薬局は「化学部の実験に使うという話を信用してしまった」と話しており、県警は、18歳未満と気づきながら売ったとみている。


 和歌山の毒物カレー事件の鑑定をした東京理科大の中井泉教授(分析化学)は「事件で有名なヒ素や青酸カリと違い、知られていないタリウムなどは警戒心を持てず、盲点だったのでは」と指摘する。


 毒劇物の販売には毒物劇物取扱責任者の資格が必要。ただし、薬剤師は、試験を受けなくても、都道府県知事へ登録すれば資格が得られる。静岡県薬剤師会は「ほとんどの薬局が登録しているはずだ」と話しており、同県内の毒劇物販売業者は約2700に上る。


 日本中毒情報センター前理事長の杉本侃・大阪大名誉教授は「そもそも、町の薬局でタリウムなどの毒劇物を売る必要性があるのか」と首をかしげる。同県薬剤師会も「農薬の需要も減り、毒劇物販売のメリットはない」と話す。


 過去に事件が起きるたびに、法改正により規制が強化されたり、販売時の手続き厳守を促す局長通知が出されたりした。だが、時間がたつと、それを無視した販売や、新たな毒劇物を使った事件が起こる。厚労省は「高1に簡単に毒劇物が売られるとは想定外だ」と困惑している。


 厚労省都道府県は、定期的な立ち入り検査のほか、講習会などを行うが、「参加業者は1割あるかないか」(伊豆の国市を管轄する東部保健所)。現場からは「客を疑うことを前提に出来ず、売れる体制にある以上は求められれば……」(静岡県内の薬局)との声も上がる。


 杉本名誉教授は「タリウムを始め必要性の少ない大多数の毒劇物の一般への販売を禁止するなど、規制の枠組みを抜本的に見直すべきだ」と問題提起する。
(2005年11月13日 10時7分)